獅子風蓮のつぶやきブログ

創価を卒業し、組織にしばられず、いろいろ考えたりしたことや、読書感想などを書いています。

佐藤優『国家の罠』その52


佐藤優氏を知るために、初期の著作を読んでみました。

まずは、この本です。

佐藤優国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて』

ロシア外交、北方領土をめぐるスキャンダルとして政官界を震撼させた「鈴木宗男事件」。その“断罪”の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた―。外務省きっての情報のプロとして対ロ交渉の最前線を支えていた著者が、逮捕後の検察との息詰まる応酬を再現して「国策捜査」の真相を明かす。執筆活動を続けることの新たな決意を記す文庫版あとがきを加え刊行。

国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて
□序 章 「わが家」にて
□第1章 逮捕前夜
□第2章 田中眞紀子鈴木宗男の闘い
□第3章 作られた疑惑
■第4章 「国策捜査」開始
 □収監
 □シベリア・ネコの顔
 □前哨戦
 ■週末の攻防
 □クオーター化の原則
 □「奇妙な取り調べ」の始まり
 □二つのシナリオ
 □真剣勝負
 □守られなかった情報源
 □条約課とのいざこざ
 □「迎合」という落とし所
 □チームリーダーとして
 □「起訴」と自ら申し出た「勾留延長」
 □東郷氏の供述
 □袴田氏の二元外交批判
 □鈴木宗男氏の逮捕
 □奇妙な共同作業
 □外務省に突きつけた「面会拒否宣言」
□第5章 「時代のけじめ」としての「国策捜査
□第6章 獄中から保釈、そして裁判闘争へ
□あとがき
□文庫版あとがき――国内亡命者として
※文中に登場する人物の肩書きは、特に説明のないかぎり当時のものです。

 


第4章 「国策捜査」開始

週末の攻防

翌5月17日、午前中に大森弁護士が今度は小菅に訪ねてきた。
「今日の面会が終わると、次は月曜日です。土日は弁護士面会がないので、この週末に検察官は徹底的に佐藤さんを落とそうとして攻勢をかけてくるでしょう」
「わかりました。気をつけます。西村検事の評判はどうですか」
「あまり噂になるタイプの検察官ではありません。脱税摘発のプロで、自白を強要するというようなタイプではないでしょう。ただし能力の高い検事だと思います。経験も積んでいます。取り調べ期間中、弁護士との面会時間は30分に抑えられていますから、接触時間の長い検察官に被疑者はだんだん引っ張られていくんです。特に接禁がつけられて外部との接触が認められないと心理的にそうなります。
その攻勢をかけるのに週末はとても有意義なんです。西村検事も今晩から勝負に出てくると思いますよ。取り調べ時間も深夜に及ぶことも珍しくなくなります。だんだん検察官が味方に見えて、弁護士が敵に見えてくるようになります。その策略にだけは気をつけてください」
「わかりました。敵と味方を見誤ることにはならないので安心してください。黙秘に切り替えたらどうだろうか」
「そうですね」
大森弁護士は一呼吸おいて答えた。
「『ミランダの会』といって、取り調べに対しては完全黙秘、公判段階で供述するとの戦術を勧める弁護士たちもいますが、勝算は必ずしもよくありません。裁判所に対して『特殊な思想をもっている人だ』という印象を与えます。それに公判で、何もない更地に全く新たに建物を建てていくというようなやり方になりますから、ひどく時間がかかります。お勧めできません」
「黙秘は検察官にとってはどのような意味をもちますか」
「ほんとうに困ります。供述調書がとれてナンボの世界ですから」
「それでも黙秘をするとどうなりますか」
「周囲を固めて滅茶苦茶な話を作り上げてくるでしょう」
「わかりました。黙秘はやめましょう」

大森弁護士の予測通り、その晩から西村氏は攻勢にでてきた。
この日、夕刻の取り調べはごく普通の調子で、ゴロデツキー教授訪日の経緯についてのやりとりがあった。夜になって、再度、西村検事から呼び出された。部屋の電気が消えていて、机の上のノート型パソコンの灯りしかない。嫌な感じだ。西村氏が強圧的に怒鳴り上げる。
「ゴロデツキー夫妻と京都に行ったとき、君は出張手続きをとっていないんじゃないか」
「記憶にないな。とってるんじゃないかな。出勤簿を見てみないとわからないな」
「出勤簿はここにある。君の判子がついてあって、出勤扱いになってるぞ。出張の判子じゃない」
「そうかい。上司には断ってるぜ」
「それでいいと思っているのか」
「思っている」
「世の中それじゃ通らないぜ」
「あっそう」
「君たちが何をやっていたか、どんどん証拠がでてきたぞ」
「ふうーん。どんな証拠」
「白ばっくれるな」
「何のことかな」
「最初経費が青天井ということだったが、話は違ったんだよな。実際にはゼニは出なかったんだってな。あんたが主任分析官をやっていても、仕事がきちんと認められていたわけではないんじゃないか」
「……」
「調べはついているんだぜ」
「……」
「鈴木の所からあんたにカネが流れてるんじゃないか」
「何の話だ」
「とぼけるな」
「……」
「黙秘か、否認か」
「否認だな」
「ウソつかないっていう約束だよな。本当にカネはいってないのか。今に証拠がでてくるぜ」
「……」
「この話はこっち(検察庁)が汚くしているわけじゃないんだぜ。勝手に汚くなっているんだぜ。あーぁ、汚くなってきた。あんたも胸張れるような話じゃなくなってくるからな。揺さぶれば何でもでてくるぞ」
「あっそう」
西村氏は調室の電気をつけ、今度はにこやかに、
「今日はこれくらいにしましょう。よく考えておいてください。それではまた明日」と猫撫で声で取り調べを終えた。
実に不愉快だ。私は独房に戻ってから憤慨した。こういうことならば、黙秘よりも戦術をエスカレートさせて、独房に籠もって取り調べ自体を拒否するという手もある。裸になって全身に糞を塗りたくってもよい。しかし、西村氏が大声を出すというのは、決して、検察の強さではない。とにかくゆっくり寝ることにした。そして検察が私についてどの程度のデータを掴んでいるのか、これまでの検察官からの質問を反芻して分析してみた。

翌土曜日の昼食で、はじめて焼きたてのコッペパンがでた。マーガリンがついていて、おかずはクリームシチューに汁粉だ。実にうまい。これですっかり機嫌がよくなって、房籠もり、裸体戦術はやめることにした。検察官に対する嫌がらせならば何をやってもよいが、いろいろ気を遣ってくれる拘置所職員には迷惑をかけたくないからだ。
それに観察していてすぐに気付いたが、拘置所職員は検察官や法務本省の役人を好いていない。私には肌でそれが感じられる。拘置所内では一種の職能集団による独自の世界が形成されている。彼らに阿る必要はないが、検察官に対して腹を立てたが故に拘置所職員に迷惑をかけるというのはお門違いだ。
土曜日の取り調べは、昨晩とは打って変わって紳士的だった。
西村氏は「そろそろ僕も調書を作らないと困るので、あなたと対立していない部分について調書を作るのに協力してください」ということだった。調書ができなくても私は全く困らないのだが、弱い立場にいるときは虚勢がいちばん有害だ。ここは素直に応じることにした。
ゴロデツキー教授と知遇を得た経緯、99年3月にゴロデツキー教授とナベー教授が訪日した際の経緯について、2本調書を作った。調書の草案を西村氏が早口で読み始めたので、私は「黙読したからいいよ。うるさいだけだ。省エネルギーでいこう」と言った。西村検事は「そうだね、極力省エネでいこう」と答えた。
翌5月19日は、99年11月にゴロデツキー教授が訪日した際に国際学会の話が持ち上がった経緯について、話だけをした。
西村氏は「あなたの話を聞いて、僕のほうでまとめておきます。あなたにも一日よく考えてもらってから調書にしましょう。必要があったら弁護士とも相談してください」と言った。私は検事にしては思ったよりフェアーな対応をすると思った。

夜の取り調べで、検事が席をはずし、検察事務官が調室でしばらく座っていることがある。30歳代の真面目そうな好青年だ。西村氏のような狡さはない。事件については被疑者と話をしないようにとの指示がなされているようなので、食事の話や官舎の話など、雑談をしながら敵の動きを探る。その結果、以下のようなことがわかった。
「西村検事は相当仕事好きで、今年4月からはほぼ休日返上で仕事をしている。検察庁に置いてある大量の書類を東京拘置所に移動中で、拘置所から移動せずに仕事ができる体制をとる。
検事も人柄はいろいろで尊大な人間も多いが、西村氏は大いなる常識人で検察事務官や部下への人当たりもよい。東京拘置所には午前10時頃登庁し、帰宅はだいたい終電である。ほとんどの特捜検事は、昼間は書類を読み込み、午後から取り調べにあたり、時間も深夜に及ぶことが多いが、西村検事はなぜか佐藤さんに対しては夜だけ、それも短時間調べることにしている。
午後3時と午後8時半に取り調べ状況について、検事のミーティングがあり、それを基礎に担当検事が取り調べの軌道修正をする。検事も役人なので、何か成果を毎日出さなくてはならない」
これを担保すれば、西村氏とも円滑にお付き合いができると私は踏んだ。但し、サービスし過ぎてはならない。敵が過度の期待をするようになる。検察は背任事件について、私の供述には期待していない。それでは私に期待する内容は何か。それを見極めることが私の課題になった。

 


解説
大森弁護士の予測通り、その晩から西村氏は攻勢にでてきた。
この日、夕刻の取り調べはごく普通の調子で、ゴロデツキー教授訪日の経緯についてのやりとりがあった。夜になって、再度、西村検事から呼び出された。部屋の電気が消えていて、机の上のノート型パソコンの灯りしかない。嫌な感じだ。西村氏が強圧的に怒鳴り上げる。

最初のころの西村検事の取調べはなかなか厳しいものだったんですね。
私は別のところ(獅子風蓮の夏空ブログ)でマンガ「憂国のラスプーチン」を読んでいますが、西村検事(高村検事)と佐藤優氏とのやり取りは、イメージが浮かびやすいですね。


マンガ「憂国のラスプーチン」を読む その3(2024-12-07)

 

獅子風蓮