獅子風蓮のつぶやきブログ

創価を卒業し、組織にしばられず、いろいろ考えたりしたことや、読書感想などを書いています。

池上彰/佐藤優『プーチンの10年戦争』を読む その18

佐藤優氏のことば。

言うまでもないことですが、ロシアがやっていることは間違っています。独立国家であるウクライナにいきなり軍事侵攻を仕掛けるなど、どんな理由があっても既存の国際法では認められません。
そのうえで、ロシアにはロシアの論理がある。プーチンの演説を丹念に読み解く作業を通じて、読者の皆さんには「プーチンの内在的論理」に耳澄ませてほしいのです。私たちは「ウクライナ必勝」と叫ぶ必要はないし、プーチンを悪魔化して憎むのも良くない。両国で暮らす一人ひとりの人間に思いを致し、一刻でも早く戦争をやめさせなければなりません。

そこで「ロシアの論理」を知るために、こんな本を読んでみました。
一部、かいつまんで引用します。

池上彰佐藤優プーチンの10年戦争』(東京堂出版、2023.06)

日本では詳しく報じられたことがない20年にわたるプーチンの論文や演説の分析から戦争の背景・ロシアのねらいを徹底分析。危機の時代の必読書!1999―2023年のプーチン大統領の主要論文・演説、2022年のゼレンスキー大統領の英・米・日本国会向けの演説完全収録!

 

プーチンの10年戦争』

□はじめに ジャーナリスト池上彰
□第1章 蔑ろにされたプーチンからのシグナル
■第2章 プーチンは何を語ってきたか
 __7本の論文・演説を読み解く
 □①「千年紀の狭間におけるロシア」(1999年12月30日)
 □②「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」(2021年7月12日)
 ■③大統領演説(2022年2月21日)
  □ウクライナはロシアの一部である
  ■「反ロシア」によって誕生したウクライナ
  □ユーロマイダン革命は西側の陰謀だ
  □モスクワは「第三のローマ」である
  □ウクライナパルチザン戦術
  □ウクライナNATO加盟は絶対に認めない
  □ドンバス地域への侵攻は集団的自衛権の行使である

 □④大統領演説(2022年2月24日)
 □⑤4州併合の調印式での演説(2022年9月30日)
 □⑥ヴァルダイ会議での冒頭演説(2022年10月27日)
 □⑦連邦議会に対する大統領年次教書演説(2023年2月21日)

□第3章 歴史から見るウクライナの深層
□第4章 クリミア半島から見える両国の相克
□終 章 戦争の行方と日本の取るべき道
□おわりに    佐藤 優
□参考文献
□附録 プーチン大統領論文・演説、ゼレンスキー大統領演説

 


第2章 プーチンは何を語ってきたか
 __7本の論文・演説を読み解く

③大統領演説(2022年2月21日)

「反ロシア」によって誕生したウクライナ

佐藤 そうですね。それから面白いのが、ソ連邦解体の原因がどこにあったのかという言及です。ここで持ち出しているのが、1989年9月に開かれた民族問題に関するソ連共産党中央委員会総会です。プーチンは、そこで採択されたソ連共産党綱領の中から、以下の三つの条項を引用しています。

・連邦の各共和国は、主権を有する社会主義国家の地位に相応するすべての権利を有している。
・連邦構成共和国の最高代表権力機関は、自身の領土において、連邦政府の決定および命令の執行に異議を申し立て、これを停止することができる。
・それぞれの連邦構成共和国はそれ自身の市民権を有し、これはそのすべての住民に与えられるものである。

それまでソ連は単一国籍として運営することが可能だったが、こういう条項を入れたためにそれが不可能になった。「ただでさえ複雑な状況にあって、なぜ、そのようなやり方で国をさらに強く揺さぶる必要があったのか? されど、事実は事実だ」と訴えます。その上で、「ソ連邦崩壊まではまだ2年あったが、その運命は事実上、もう決められてしまった」と説くわけです。

池上 つまりプーチンの頭の中では、ソ連の崩壊は1991年12月ではなく1989年9月だったと。それも一連の東欧革命に影響を受けたのではなく、権力の内側から崩れていったという考え方なんですね。そう認識していたというのは面白い。

佐藤 要するに政策に戦略性がなく、その場しのぎで首尾一貫していなかったと。これは当時ソ連をウォッチした私から見ても、非常に鋭い洞察だと思います。たしかにこの民族問題に関する中央委員会総会が一つの分水嶺でした。

池上 その混乱の中で、1991年にソ連は崩壊し、同時にウクライナは念願の独立を果たすのです。

佐藤 その新生ウクライナに対し、プーチンは当然ながら酷評しています。

〈ここで強調しておきたいのだが、ウクライナ政権は当初から、まさに最初の一歩から、我々を結びつけているあらゆることの否定の上に国家体制を築こうとしたし、ウクライナに暮らす何百万もの人々、全世代の意識と歴史的記憶を歪めようとした。ウクライナ社会が極端な民族主義の高まりに直面したことは驚くに当たらない。それはすぐに、攻撃的なロシア嫌悪とネオナチズムの形をとるようになった。北カフカスのテロリスト一味に、ウクライナ民族主義者とネオナチが関与し、ロシアに対し領土を要求する声がますます高まっている理由も、ここからきている。〉

これは、韓国の民族形成と似ている気がするんですよ。

池上 なるほど。たしかに韓国併合後の1919年、独立運動家の李承晩は上海に大韓民国臨時政府を樹立しました。李自身はすぐに仲間から追放され、アメリカに行くのですが。もちろん「反日」を掲げていましたが、実はその政府に実体は何もなかった。そして戦後、権力を掌握したときも、やはり「反日」を旗印にして建国を進めるわけです。

佐藤 民族を形成するときは、いかに自分たちが偉大な民族かという積極的な概念を打ち出すより、敵のイメージをはっきりさせたほうがまとまりやすい。まさにウクライナはそうやって民族をつくろうとしたと、プーチンは見ているわけです。そうなると、ウクライナ民族というものが存在する限り、その本質は反ロシアであるということになります。
だから今後、もしウクライナを統合することになったとしたら、「ウクライナ」という名称を用いなくなる可能性がある。帝政ロシア時代はこの地域をウクライナとは呼ばず、「ノヴォロシア」「マロロシア」「ガリツィア」などと呼んでいましたからね。そういう名称を復活することになる可能性があると思います。

池上 二本目のプーチン大統領演説「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」でも触れましたが、「ノヴォロシア」とは、まさに今のウクライナ戦争で主戦場になっている東部のドンバス地域やクリミア半島あたりを指します。「新しいロシア」という意味ですね。
中国に置き換えれば、「新疆ウイグル自治区」と似ていますね。「新疆」とは「新しい土地」という意味ですから。
それから「マロロシア」は「小ロシア」という意味で、帝政ロシア時代のウクライナの名称ですね。

佐藤 本来、「マロロシア」はロシアの中央という意味ですが、今は完全に「小ロシア」のイメージで使われています。混乱を避けるなら「キエフ・ルーシ」でもいいですよね。
それから西部の「ガリツィア」はもともとロシアではないので、「ウクライナ」を自称するかもしれません。そうすると、キエフ・ルーシとガリツィアの間に境界線が引かれるイメージでしょう。
ただし最西端にあるザカルパチア州は、ウクライナ人とは一線を画すスラヴ系の少数民族ルシン人が多く住んでいました。彼らに対してはウクライナ人への同化政策が進められ、その文化をほとんど消滅させている。ザカルパチアがソ連ウクライナに併合されたあと、ウクライナでは「ルシン」という言葉を使うことすら禁止されていました。ルシン人のアイデンティティを持つ人は、周辺の東欧諸国や北米に散っている状態です。
そこでロシアとしては、ルシン人を徹底的に応援することで彼らの民族意識を高め、ウクライナ批判の急先鋒に仕立て上げていく可能性もあると思いますね。ルシン人には反ウクライナ感情があるので、火をつけることが可能です。

 

 


解説

今後、もしウクライナを統合することになったとしたら、「ウクライナ」という名称を用いなくなる可能性がある。帝政ロシア時代はこの地域をウクライナとは呼ばず、「ノヴォロシア」「マロロシア」「ガリツィア」などと呼んでいましたからね。そういう名称を復活することになる可能性があると思います。

ウクライナ戦争後にウクライナがロシアに統合される可能性にまで踏み込んで言及していますが、ウクライナにとっては失礼な話です。

 

獅子風蓮