獅子風蓮のつぶやきブログ

創価を卒業し、組織にしばられず、いろいろ考えたりしたことや、読書感想などを書いています。

佐藤優『国家の罠』その73


佐藤優氏を知るために、初期の著作を読んでみました。

まずは、この本です。

佐藤優国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて』

ロシア外交、北方領土をめぐるスキャンダルとして政官界を震撼させた「鈴木宗男事件」。その“断罪”の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた―。外務省きっての情報のプロとして対ロ交渉の最前線を支えていた著者が、逮捕後の検察との息詰まる応酬を再現して「国策捜査」の真相を明かす。執筆活動を続けることの新たな決意を記す文庫版あとがきを加え刊行。

 

国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて
□序 章 「わが家」にて
□第1章 逮捕前夜
□第2章 田中眞紀子鈴木宗男の闘い
□第3章 作られた疑惑
□第4章 「国策捜査」開始
■第5章 「時代のけじめ」としての「国策捜査
 □鈴木宗男杉原千畝(ちうね)
 □下げられたハードル
 □ケインズ型からハイエク型へ
 □「国際協調的愛国主義」から「排外主義的ナショナリズム」へ
 □「あがり」は全て地獄の双六
 □ハンスト決行
 ■「前島供述」との食い違い
 □再逮捕への筋書き
 □再逮捕の日
 □取調室の不思議な会話
 □三つの穴
 □再々逮捕を狙う検察との持久戦
 □やけ酒
 □不可解だった突然の終幕
 □それから

□第6章 獄中から保釈、そして裁判闘争へ
□あとがき
□文庫版あとがき――国内亡命者として
※文中に登場する人物の肩書きは、特に説明のないかぎり当時のものです。

 


第5章 「時代のけじめ」としての「国策捜査

「前島供述」との食い違い

6月21日、48時間のハンスト後、初めての夕食を堪能し、独房で横になっていると、看守がガチャガチャと鍵を開け、「調べ」と言った。
さて、鈴木氏の逮捕を受け、検察は私にどのように対峙してくるのであろうか。取調室に入るなり、西村氏は、「鈴木先生は元気にしているよ。大きな声で取り調べに応じている。取り調べを担当している谷川副部長も『鈴木さんはいい人だ』と言っている」と参考情報を提供してきた。
その上で、「僕が三井物産の関係についても取り調べることになった。ディーゼル班に組み入れられることになったんだ。これからは取り調べ時間が長くなるかもしれないが、協力して欲しい」と言った。
私は「西村さんが相手ならば応じよう」と、その申し出を受けることにした。そして、その日から細かい取り調べが始まったのだった。西村氏の細かい質問に答え、第3章で述べた北方四島におけるディーゼル発電事業と私の絡みについて、実態ベースで詳細に話した。西村氏はそれを淡々と聞き、メモをとっていった。
6月24日に私の方から、「そろそろあなたたちの絵柄を教えて欲しいのだけれど」と水を向けると、西村氏は次のように述べた。
「まず、三井物産が談合をし、不正が行われていたことは確実だ。第二に、鈴木さんがディーゼル入札を巡り、何らかの動きをしていた蓋然性が高い。第三に前島が入札価格を漏らしたことも確実だ。第四に、それならば前島の動機は何なのかということになる。佐藤チームの仕事か、それとも前島の個別利益かということになる。第五に、鈴木さんと三井物産をつなぐルートがどうなっているのか確定しなくてはならない。三井―前島―佐藤―鈴木という流れなのか、三井―前島―支援室―鈴木なのか、まだ見えてこない。今のところはこんな絵柄だよ」
「前島は何て言っているの」
「涙の訴えをしている。『佐藤が会合でディーゼルは俺が仕切っていると言っていた。全て佐藤の指示でやった』と言って泣いている」
「そんな話を聞くとこっちも泣きたくなるな。僕も涙の訴えでもしてみようか」
「もう。そういうこと言うんだから」
「取り調べ状況について、弁護人に言って毎日、司法クラブと霞クラブにファックスを流してもらうようにするか」
「あなたならやりかねないので恐ろしい。ファックスとか獄中手記とか、ハンスト、房籠もりとか、そういう面倒な話はもういいかげんにやめて欲しい。僕だってあなたのためにできるだけ良心的に取り調べをしていることをわかってほしい」
「それはよくわかっている。だから正直に供述しているじゃないか」
「しかし、僕の立場としてはあなたの話を聞いて『はいそうですか。わかりました』とは言えないんだ。現時点で僕が言えることは、君の供述と前島の供述が完全にぶつかっているということだけだ」

6月25日の取り調べでは、前島氏が検察庁に対して追加上申書を提出したとの話を聞いた。
西村氏によれば、「前島の上申書では、佐藤の前でわれわれキャリアは怖くて何も言えないような状態だったということだ。外務省もこの流れに乗っかろうとしている。しかし、どうも僕の腹にストンと落ちないんだ。前島の話を聞いていると、その片鱗からあなたとけっこう楽しく仕事をしていたような感じがするんだな。怖くて何も言えなかったというような感じじゃない」ということだった。
「西村さん、僕がほんとうに怖く見えるかい」
「それは怖いよ。意思力が強いし、それに格好をつけるからね。プライドが高いんだよ」
「そんなことないよ。プライドなんかないよ、ほんとうに。僕は気が弱いんだ。それに格好なんかつけていないよ」
「いや、格好をつけている。もう、面倒なんだから」
「取り調べ状況のメモは毎日上にあげているんだろう。上はどう反応している」
「『西村、どうして佐藤の取り調べを宇宙の果てみたいなところでやってるんだ。もっと中心に引き寄せろ』と言われる。僕は、『僕が宇宙の果てみたいなことを言っているんじゃなくて、佐藤が言っているんです』と言うんだが、みんなとても嫌な顔をしている。ディーゼル班の部屋にはあまり寄りつかないようにしているんだ」
「背任だって呑み込んだし、今回だって正直に話しているんだから、立派な供述態度じゃないか」
「それはうち(特捜)では立派な供述態度じゃないの。立派な供述態度というのは、まず罪を認めて『ゴメンナサイ』して、それから反省していますというのを言うの。あなたの供述態度はそれからほど遠い。だから背任だって、僕は『ゴメンナサイ』とか反省していますなんてことばは一言も書かなかったじゃない。できるだけあなたの考えに近づけて調書を作ったつもりだぜ」
「それには感謝している。しかし、西村さんはどうして謝罪や反省を言わせようとしないんだい」
「公判になってからあなたがどういう態度を取るかが目に浮かぶからだ。そのとき調書にゴメンナサイとか反省とかあなたの態度とかけ離れている文言があると任意性に疑念が生じるというのが周囲に対する説明。だけど、あなたの心情も少しは反映させたいと思っているんだぜ」
「前島の話のどこがストンと腹に落ちないんだい」
「同一犯罪者の手口はだいたい同じなんだよ。背任のとき、あなたは鈴木さんや東郷などいろいろな人を巻き込んで、話を大きくするなかで自分の目的を達成した。ディーゼルは、あなたは黒幕に回りこそこそ画策しているという絵柄なんだけど、これはあなたの手口じゃない。
そもそも前島と三井物産におかしな関係があるということにいちばん最初に気付いたのは僕なんだ。支援室の連中を調べたときにそういう話が聞こえてきて、ここには何かあると思った。あなたの影が全然でてこないんだよ。あなたから鈴木さんにカネがいっていれば実に面白い話になるんだけど、そんな感じがしないんだな」
「カネなんかいってないよ」
「ほんとうだな。三井が蓋を開いて、物証が出てきたら、覚えていろ。徹底的にやってやるからな」
「心配しないで大丈夫だよ、僕経由でカネなんかいってないよ」
「とにかくこっちは人を疑うのが仕事なんだ。あなたを信頼していて、もし裏切られたら、僕は傷ついてほんとうにどういう暴れ方をするかわからないからね。お金が鈴木さんのところにいっていたら、ほんとうに教えてね」
「いってないって」
後に独房で私は弁護人から差し入れられた偽計業務妨害関連の供述調書の写しを読ん だ。前島氏が何度も「佐藤が飯野(政秀)に鈴木代議士のところにあいさつに行けと言ったのは謝礼をもっていけという意味と思いました」との供述をしていることを知り、私は愕然とした。このような前島供述がある以上、検察庁の一員として西村氏に期待されていたのは、私から「三井物産から鈴木宗男にカネがいっている」という供述をとることだったが、西村氏は無理な取り調べをしなかった。

 


解説

「前島は何て言っているの」
「涙の訴えをしている。『佐藤が会合でディーゼルは俺が仕切っていると言っていた。全て佐藤の指示でやった』と言って泣いている」

 

別のところ(獅子風蓮の夏空ブログ)でマンガ憂国のラスプーチン」を検証しました。ここでは前島は後藤という名前で出てきますが、不正などするはずのない潔癖な人物として描かれています。

 

背任の件とディーゼルの件での前島氏の役割は分けて考える必要がありそうです。

佐藤氏が言うように、背任の件では前島氏は横領はしていなかったのでしょう。

しかし、ディーゼルの件では三井物産の談合・不正は明らかで、前島による情報提供が行われたのも事実でしょう。

問題は、佐藤氏の関りがどのようにあったかということですが、これまでの記事でも明らかなように、佐藤氏が三井物産飯野政秀氏を前島氏に紹介したのは事実であり、そのとき「三井物産をよろしく」というような話をしたのでしょう。

それを、佐藤氏と鈴木宗男氏の意向と汲んで、後藤氏が忖度したということでしょうか。

佐藤氏は、自分の手は実際には汚さなかったかもしれませんが、ディーゼルの件では道義的責任は免れないでしょう。

 

 

獅子風蓮