
佐藤優氏を知るために、初期の著作を読んでみました。
今回は、この本です。

ソ連邦末期、世界最大の版図を誇った巨大帝国は、空虚な迷宮と化していた。そしてゴルバチョフの「改革」は急速に国家を「自壊」へと導いていた。ソ連邦消滅という歴史のおおきな渦に身を投じた若き外交官は、そこで何を目撃したのか。大宅賞、新潮ドキュメント賞受賞の衝撃作に、一転大復活を遂げつつある新ロシアの真意と野望を炙り出す大部の新論考を加えた決定版。
(もくじ)
序 章 「改革」と「自壊」
第1章 インテリジェンス・マスター
第2章 サーシャとの出会い
第3章 情報分析官、佐藤優の誕生
第4章 リガへの旅
第5章 反逆者たち
第6章 怪僧ポローシン
第7章 終わりの始まり
第8章 亡国の罠
第9章 運命の朝
あとがき
文庫版あとがき――帝国は復活する
というわけで、「文庫版あとがき」を紹介させていただきます。
興味をもたれた方は、是非本文もごらんになってください。
文庫版あとがき――帝国は復活する
(つづきです)
言語構造と思想には密接な関係がある。今回、国際秩序に大混乱をもたらすきっかけを作ったグルジアのサーカシビリ大統領やソ連の独裁者スターリン、さらに日本でも翻訳が出されている現代ロシアの小説家ボリス・アクーニン(本名グリゴーリー・チハルチシビリ、アクーニンは日本語の“悪人”からとったペンネーム)などは、グルジア語を母語にしているので、他の言語を母語とする人々とは違った天才的な発想がでてくるのだろう。
コーカサス地域で、民族が政治的意味をもつようになったのは遅く、19世紀末のことだ。それまでは人間集団を分ける指標として、宗教が大きな意味をもった。
コーカサス地域の宗教事情を簡潔に説明しておく。
アゼルバイジャン人がイスラーム教のシーア派(イランと同じ十二イマーム派)で、チェチェン人、イングーシ人、カバルディア人、チェルケス人などの北コーカサスの山岳民族のほとんどはイスラーム教のスンニー派(シャフィイー法学派)である。アルメニアはキリスト教だが、5世紀にキリストの神性しか認めない(正統派神学ではイエス・キリストは、まことの神で、まことの人なので、神性と人性をもつ)「異端」と断罪された単性論派(アルメニア教会)だ。ここで、「北コーカサスの山岳民族のほとんど」として、「すべて」としなかったのは、北コーカサスの北オセチア共和国(ロシア領)とトランスコーカサスの南オセチア自治州(グルジア領)の宗教事情が特殊だからである。南オセチアは、一方的にグルジアからの独立を宣言し、2008年8月26日にロシアのメドベージェフ大統領が南オセチアと同じくグルジア領のアブハジア自治共和国を一方的に「独立国」として承認し、2008年9月現在、国際情勢を混乱させる大問題を引き起こしている。
宗教的にオセチア人はもともと他の山岳民族と同じスンニー派だったが、18世紀後半から19世紀前半にロシアがコーカサスに進出する過程でロシア正教に改宗した。世界史でもイスラーム教からキリスト教に改宗するという稀な例で、現在、正確な統計は存在しないが、オセチア人の九割以上が正教徒と見られている。
グルジア人は、ロシア正教と教義を同じくするグルジア正教を信じている。ちなみにロシアがキリスト教を導入したのは、988年、キエフ・ルーシのウラジミール公が洗礼をうけたときとされている。グルジアに関しては、317年に東グルジアに存在したイベリア王国がキリスト教を受け入れている。キリスト教受容についてグルジアはロシアよりも671年も先輩なのである。
コーカサスにおけるグルジアとオセチアは、ロシアにとって重要な同盟者なのである。ロシア帝国はグルジア人、オセチア人の協力者を通じて、コーカサス支配を行う。1917年の社会主義革命後もグルジア人、オセチア人はソ連共産党中央委員会、KGB(国家保安委員会)、内務省などに強力なロビーを形成し、それはソ連崩壊後の現在に通じているのである。
(つづく)
【解説】
コーカサスにおけるグルジアとオセチアは、ロシアにとって重要な同盟者なのである。ロシア帝国はグルジア人、オセチア人の協力者を通じて、コーカサス支配を行う。1917年の社会主義革命後もグルジア人、オセチア人はソ連共産党中央委員会、KGB(国家保安委員会)、内務省などに強力なロビーを形成し、それはソ連崩壊後の現在に通じているのである。
なるほど、勉強になります。
獅子風蓮