獅子風蓮のつぶやきブログ

創価を卒業し、組織にしばられず、いろいろ考えたりしたことや、読書感想などを書いています。

池上彰/佐藤優『プーチンの10年戦争』を読む その36


佐藤優氏のことば。

言うまでもないことですが、ロシアがやっていることは間違っています。独立国家であるウクライナにいきなり軍事侵攻を仕掛けるなど、どんな理由があっても既存の国際法では認められません。
そのうえで、ロシアにはロシアの論理がある。プーチンの演説を丹念に読み解く作業を通じて、読者の皆さんには「プーチンの内在的論理」に耳澄ませてほしいのです。私たちは「ウクライナ必勝」と叫ぶ必要はないし、プーチンを悪魔化して憎むのも良くない。両国で暮らす一人ひとりの人間に思いを致し、一刻でも早く戦争をやめさせなければなりません。

そこで「ロシアの論理」を知るために、こんな本を読んでみました。
一部、かいつまんで引用します。

池上彰佐藤優プーチンの10年戦争』(東京堂出版、2023.06)

日本では詳しく報じられたことがない20年にわたるプーチンの論文や演説の分析から戦争の背景・ロシアのねらいを徹底分析。危機の時代の必読書!1999―2023年のプーチン大統領の主要論文・演説、2022年のゼレンスキー大統領の英・米・日本国会向けの演説完全収録!

 

プーチンの10年戦争』

□はじめに ジャーナリスト池上彰
□第1章 蔑ろにされたプーチンからのシグナル
■第2章 プーチンは何を語ってきたか
 __7本の論文・演説を読み解く
 □①「千年紀の狭間におけるロシア」(1999年12月30日)
 □②「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」(2021年7月12日)
 □③大統領演説(2022年2月21日)
 □④大統領演説(2022年2月24日)
 □⑤4州併合の調印式での演説(2022年9月30日)
 ■⑥ヴァルダイ会議での冒頭演説(2022年10月27日)
  □対ウクライナ戦争から、対西側の価値観戦争へ
  □西側の「キャンセル・カルチャー」は誰も幸福にしない
  ■西側はドストエフスキーチャイコフスキーまで排斥しはじめている
  □ロシアから発信されるものは、すべて「クレムリンの陰謀」か
  □ロシアは、他人の裏庭には干渉しない
  □西側一極集中から脱却し、人類文明のシンフォニーを構築しよう
  □トルコ・サウジアラビアとは信頼関係を構築

 □⑦連邦議会に対する大統領年次教書演説(2023年2月21日)

□第3章 歴史から見るウクライナの深層
□第4章 クリミア半島から見える両国の相克
□終 章 戦争の行方と日本の取るべき道
□おわりに    佐藤 優
□参考文献
□附録 プーチン大統領論文・演説、ゼレンスキー大統領演説

 


第2章 プーチンは何を語ってきたか
 __7本の論文・演説を読み解く

⑥ヴァルダイ会議での冒頭演説(2022年10月27日)

西側はドストエフスキーチャイコフスキーまで排斥しはじめている

佐藤 わざわざソルジェニーツィンに言及したのは、ロシア文化をアピールする狙いもあったのでしょう。プーチンが懸念しているのは、西側によるロシア排斥が、政治や経済のみならず文化にまで及んでいることです。その点において、現状は東西冷戦期よりもっと悪いと認識しているようです。

〈冷戦の最盛期、体制、イデオロギー、軍拡競争という対立の真っ只中にあっても、敵対者の文化、芸術、科学の存在そのものを否定することは、誰にとっても思いもよらないことであった。誰も思いつかなかったのだ! たしかに、教育、科学、文化、そして残念ながらスポーツ関係にも一定の制約が課せられていた。しかし、それでも、当時のソ連アメリカの指導者たちは、少なくとも将来にわたって健全で実りある関係の基礎を維持するためには、競争相手を研究し尊重し、時には相手から何かを借用しながら、人道的な領域は繊細に扱うべきであることを十分に理解していたのである。〉

池上 これは肌感覚としてわかります。たしかに東西冷戦期、日本や欧米諸国にとってソ連は仮想敵でしたが、大学ではソ連の政治、経済、軍事の研究だけでなく、ロシア語やロシア文学の研究も行われていました。これは、敵を知ることが重要という考えがあったのでしょう。あるいは街中には「うたごえ喫茶」があり、ドストエフスキートルストイのようなロシア文学もあり、チャイコフスキーのバレエもあり、ソ連に親近感を覚えたりもしていました。政治的対立はあっても、文化に関しては別でしたよね。

佐藤 ロシア側もそうです。欧米や日本に対する研究は、昔も今も積極的に行っています。西側の文学、音楽、演劇を忌避する動きもありません。ところが欧米(特にヨーロッパ)では、ロシア文化に対する忌避反応を含む「ロシア嫌悪(ルソフォビア)」が深刻になっています。まさにドストエフスキーまで忌避されるようになっているとか。
そこでプーチンはこう指摘します。

〈一方、今は何が起きているのであろうか。ナチスは当時、焚書まで行ったが、今や西側の「自由主義と進歩の熱心な信奉者たち」はドストエフスキーチャイコフスキーを禁止するまでに堕落したのだ。いわゆるキャンセル・カルチャーだが、実際問題――このことについては、すでに何度も話しているが本格的なキャンセル・カルチャーは、あらゆる生命的なもの、創造的なものを滅ぼし、経済でも政治でも文化でも、どの分野でも自由な思想の発展を許さない。
リベラルなイデオロギーそのものが、今日では認識できないほど変化してしまっている。古典的なリベラリズム自由主義)はもともと、人それぞれの自由を、言いたいことを言い、やりたいことをやる自由と理解されていたが、20世紀にはすでに、いわゆる開かれた社会には敵がいること――開かれた社会には敵がいるということがわかった――そうした敵の自由は制限され得るし、制限されるべきであり、あるいは取り消されるべきだとリベラリストたちは言いはじめた。今や、代替的な見解はどんなものでもすべて、破壊的なプロパガンダであり、民主主義への脅威であるとする不条理の極みにまで達しているのである。〉

西側のリベラリズムは、同質のアトム(原子)的個体によって構成されている単一の普遍的世界なので、そこでは単一のルールが適用されます。経済的には新自由主義的な市場万能思想であり、政治的には自由主義的な民主主義です。これと異なる原理を西側が理解しようとしないために、ロシアとの対立が生じているというのがプーチンの認識です。

 

 


解説

今や、代替的な見解はどんなものでもすべて、破壊的なプロパガンダであり、民主主義への脅威であるとする不条理の極みにまで達しているのである。

というプーチンの言葉は、いささか被害妄想的ではないでしょうか。

 

獅子風蓮