獅子風蓮のつぶやきブログ

創価を卒業し、組織にしばられず、いろいろ考えたりしたことや、読書感想などを書いています。

池上彰/佐藤優『プーチンの10年戦争』を読む その37


佐藤優氏のことば。

言うまでもないことですが、ロシアがやっていることは間違っています。独立国家であるウクライナにいきなり軍事侵攻を仕掛けるなど、どんな理由があっても既存の国際法では認められません。
そのうえで、ロシアにはロシアの論理がある。プーチンの演説を丹念に読み解く作業を通じて、読者の皆さんには「プーチンの内在的論理」に耳澄ませてほしいのです。私たちは「ウクライナ必勝」と叫ぶ必要はないし、プーチンを悪魔化して憎むのも良くない。両国で暮らす一人ひとりの人間に思いを致し、一刻でも早く戦争をやめさせなければなりません。

そこで「ロシアの論理」を知るために、こんな本を読んでみました。
一部、かいつまんで引用します。

池上彰佐藤優プーチンの10年戦争』(東京堂出版、2023.06)

日本では詳しく報じられたことがない20年にわたるプーチンの論文や演説の分析から戦争の背景・ロシアのねらいを徹底分析。危機の時代の必読書!1999―2023年のプーチン大統領の主要論文・演説、2022年のゼレンスキー大統領の英・米・日本国会向けの演説完全収録!

 

プーチンの10年戦争』

□はじめに ジャーナリスト池上彰
□第1章 蔑ろにされたプーチンからのシグナル
■第2章 プーチンは何を語ってきたか
 __7本の論文・演説を読み解く
 □①「千年紀の狭間におけるロシア」(1999年12月30日)
 □②「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」(2021年7月12日)
 □③大統領演説(2022年2月21日)
 □④大統領演説(2022年2月24日)
 □⑤4州併合の調印式での演説(2022年9月30日)
 ■⑥ヴァルダイ会議での冒頭演説(2022年10月27日)
  □対ウクライナ戦争から、対西側の価値観戦争へ
  □西側の「キャンセル・カルチャー」は誰も幸福にしない
  □西側はドストエフスキーチャイコフスキーまで排斥しはじめている
  ■ロシアから発信されるものは、すべて「クレムリンの陰謀」か
  □ロシアは、他人の裏庭には干渉しない
  □西側一極集中から脱却し、人類文明のシンフォニーを構築しよう
  □トルコ・サウジアラビアとは信頼関係を構築

 □⑦連邦議会に対する大統領年次教書演説(2023年2月21日)

□第3章 歴史から見るウクライナの深層
□第4章 クリミア半島から見える両国の相克
□終 章 戦争の行方と日本の取るべき道
□おわりに    佐藤 優
□参考文献
□附録 プーチン大統領論文・演説、ゼレンスキー大統領演説

 


第2章 プーチンは何を語ってきたか
 __7本の論文・演説を読み解く

⑥ヴァルダイ会議での冒頭演説(2022年10月27日)

ロシアから発信されるものは、すべて「クレムリンの陰謀」か

佐藤 さらに、西側のロシア観を以下のように批判しています。

〈ロシアから出てくるものは、すべて「クレムリンの陰謀」なのである。しかし、自分たちをよく見てほしい。我々は本当に全能なのだろうか。我々の反対者への批判はどんなものでも――どんなものでもだ! ――「クレムリンの陰謀」「クレムリンの手先」と受け取られているのである。これはたわ言だ。どこまで〔彼らは〕堕してしまったのだろうか。せめて頭を使い、もっと何か面白いことを表現し、概念的に自分の見解を提示してほしい。すべてをクレムリンの陰謀・奸計のせいにすることはできないのだ。
ドストエフスキーは、すでに19世紀にこのことを予言していた。彼の小説『悪霊』の登場人物の一人、ニヒリストのシガリョフは、彼の想像する明るい未来について次のように表現した。「限りない自由から出でて、限りない専制主義で締めくくる」。そして、これこそ西側の我々の反対者たちがたどり着いたものなのだ。彼に同調して、小説のもう一人の登場人物ピョートル・ヴェルホヴェンスキーは、裏切り、密告、スパイはどこでも必要で、社会には才能や高い能力は必要ないと主張する。「キケロは舌を切られ、コペルニクスは目をくり貫かれ、シェークスピアは石で打たれる」のだ。西側の我々の反対者たちはここまで来てしまっているのである。これが、西洋のキャンセル・カルチャーでなくて何なのだろうか。彼らは偉大な思想家だった。正直に言うが、引用したこれらの言葉を見つけてくれた私の補佐官たちに感謝している。〉

池上 非常にウィットに富むというか、西側が自分たちをどう見ているかを知り抜いた上での発言のようですね。最後に「補佐官たちに感謝している」と述べているのも、自分が『悪霊』を読み込んだわけではないと白状しているようで、余裕のユーモアを感じます。

佐藤 「限りない自由から出でて、限りない専制主義で締めくくる」という言葉が強烈ですよね。要するに19世紀のドストエフスキーは、自由主義を掲げる西側が、金銭によって支配され、キリスト教的価値観が失われ、相互不信の疎外された社会になっているとして反西欧主義を掲げたわけです。それを引用すれば、21世紀のロシア人の琴線に触れるとプーチンは考えたのでしょう。
続けて以下のように述べています。

〈こんなことに対して、何を語ることができるだろうか。歴史は、必ずすべてをその場に収め、取り消されるのは、誰もが認める世界文化の天才たちの最高傑作ではなく、こうした世界文化を自分の裁量で処理する権利があると、今、どういうわけか判断した人たちだろう。これらの活動家たちの自己過信は何というべきか際限がないのだが、数年後には誰も彼らの名前すら覚えていないだろう。一方、ドストエフスキーは生き続けるだろうし、チャイコフスキープーシキンもそうだろう。誰かがそれを望まなかったとしてもである。
西側のグローバリゼーションのモデルも、その本質は新植民地主義なのだが、規格化、金融と技術の独占、ありとあらゆる差異の消去の上に築かれたものである。その目標は明確であり、世界経済と政治における西側の無条件の支配を固め、そのために地球全体の天然資源、金融資源、知的、人的、経済的能力を自身のために役立させ、いわゆる新しい地球規模の相互依存のもとでそれを行うことであった。〉

池上 文化闘争ならロシアは西側に負けないぞと。ドストエフスキーのみならず、チャイコフスキープーシキンまで持ち出されると説得力があります。行き詰まった西側の近代文明を超克するのがロシアの使命だという発想は、たしかにロシア国民の魂を揺さぶるでしょう。

佐藤 実は1930年代の日本でも、京都学派の田邊元(1885~1962)、高山岩男(1905~93)ら一部の知識人は西洋文明がつくり出した「近代」を超克することに日本国家の歴史的使命があると主張していました。プーチンの思想はそれに似ています。その意味では、プーチンは単なる政治家ではなく、思想家でもあるといえます。

 

 


解説

池上 文化闘争ならロシアは西側に負けないぞと。ドストエフスキーのみならず、チャイコフスキープーシキンまで持ち出されると説得力があります。行き詰まった西側の近代文明を超克するのがロシアの使命だという発想は、たしかにロシア国民の魂を揺さぶるでしょう。

 

確かにプーチンの主張は、ロシア国民の心には響くかもしれませんが、それは侵略戦争の理由にはなりません。

 

 

獅子風蓮